ダルタニャン物語〈第10巻〉鉄仮面

レビュー

饒舌にみるデュマの天才

幽閉されていたフィリップ王子の言動は思考力 分析力のなさを示していた
このシリーズで王侯貴族たちはほとんど自分の 他人の立場を精緻に展開する雄弁家なのに これほど明瞭に人となりを書き分けられる作家は現在も稀有だ

アラミスv.s.ダルタニャン

アラミスという野望家は、もしかしたらダルタニャンの最大のライバルかもしれない。この二人の緊張感を伴う腹の探り合いは、「二十年後」編と「ブラジュロンヌ子爵」編の醍醐味である。駆け引きあり、出し抜いたり追い抜かれたりしつつ、二人ともベストを尽くすのが読者としては小気味良い。こんな友情、男同士じゃないと成り立たないだろうと思うととても憧れてしまう。

アトスはすっかり子離れできないお父さんとなり、一定の品位はあるが、往年の迫力はぜんぜん感じられなくなってしまった。そもそも、自分も反対していた息子の恋人が国王に見初められたからって、親が文句言いに行くというのも現代の感覚では「過保護」でしょう・・・。ラウルってそんなにいい子だったか?親の言い付けはよく守るし、忠義な貴族としては満点だけれど、男としてはペケ。しつこいし女々しい。立ち直れもしない。ダルタニャンたち4人のお父さん世代が殺しても死なないほどしたたかなのに比べると、脆弱すぎて食い足りない。

ラウルの失恋そっちのけで次第に明るみになってくるアラミスの野望は途方もない大胆な計画であり、‘イエズス会管区長’という物語世界ではなぜか絶対の権力を武器に彼はどんどんのし上がっていく。(この黄門様の印籠みたいな肩書きが何なんだか知りたい)

この、50代半ばを過ぎてもなお魅力的でやさしげなアラミスの姿、私は田村正和さんをイメージする。あんな顔で権謀術数の大家いうギャップがたまらない。
3人の中で唯一いつも変わらないポルトスがいい。相変わらずの腕力担当。愚直なまでに友達を信じて、アラミスの野望の片棒を担がされてしまう。

鉄仮面のクライマックスは見事で、途中で止められないこと覚悟で読むことをオススメしたい。