どこでもないどこか

レビュー

虚無感と無常観と生の意義の二律背反

イメージ再生装置を生み出す消えた美少女を惜しむ「黒い天使」、ベトナムの戦火の中のゴム園にまつわる「林でない林」、19歳で一冊だけ写真集を出して消えた写真家遠井一を語る「ここはアビシニア」、東京の街の変化を感じ取る「背後には何もないか」、広島の実家が住む人を失い朽ちていく「メランコリックなオブジェ」、精神病院が廃墟と化していく「岸辺にて」の、1988年から1990年までに書かれた短篇6編を収録。

圧倒的な虚無感と無常観に支配されながらも、生の意義の存在を確信し、その正体を突き詰めていく二律背反、これが日野氏の文章の醍醐味でしょう。それは氏が戦後の東京の焼け野原、京城からの脱出、戦火のベトナムを自身のナマの眼で見て、体験してきたことと無関係ではないでしょう。

虚無と意味のはざまのぎりぎりのせめぎ合いを、形而上の産物である文字と言語でこりこりと表現していく。日野氏にかかると、文字の組み合わせが妖しく生命をもって、蠢きだします。すばらしい。