亜愛一郎の狼狽 (創元推理文庫)

レビュー

心の底から湧き上がるミステリー愛の波動

ユーモラスにしてトリッキー、奇怪な好奇心と遊び心に満ちた連作短編集です。奇術師としても知られた泡坂先生の作品はミステリ=推理小説
としての側面もさることながら、ミステリ=ワクワクするような謎という側面がとても前面に出てるのが特徴だ。
本書にはデビュー作となる「DL2号機事件」を始め、色彩豊かな独特の世界観がタップリ。その独立独歩の世界観を文字通り狼狽する探偵役の
亜愛一郎(あ あいいちろう)は誰にも愛されるナイスガイだ。

全部面白いけど、個人的に「掌上の黄金仮面」は尋常じゃないなぁ。。理屈じゃないフィーリングで、ただただ素直に純粋に愉しんでみて!

日本推理小説史上最高の短編集

 チェスタトン張りの逆説、丁寧な伏線、魅力的な探偵、達者な文章、意外な結末、日本の推理小説も捨てた物じゃないと思わせて来くれる良作。読むべし!!
 日本の探偵の中でいの一番に来るようにと命名された「亜愛一郎」シリーズの記念すべき第1作。作者の意図通り、日本で一番魅力的で、日本で一番頭の切れる探偵であろう。
 お奨め作品は「G線上の鼬」と「掘出された童話」。
「G線上の鼬」は日本史上最高の密室物(これを短編に惜しげもなく使うというのが凄い)と言って良く、読んだ時思わず膝を叩いてしまった。
「掘出された童話」は、最初に長々と脳天気な童話が掲載されていることから暗号物と分かる作品である。と言ってまず解読した人はいないと思うが、半ばまでは大抵の人は到達できる筈。作品の中で亜愛一郎が「そこからが大変」と言っている様にそれからが難しいのだが、幾つかの手がかりは用意されており、解読の道程は納得出来る物だ。
 その解読された内容の(暗号文たる童話は脳天気であるだけに)に、大抵の人はぞっとするはず。暗号物として、日本史上屈指の傑作。
 

ジャニーズ主演でドラマ化すれば?

二枚目だがドジでかっこわるく、しかし推理力は抜群という探偵が主人公。
亜という苗字もしだいに違和感がなくなって、むしろ魅力的に思えてくる。
これ、ジャニーズの人が主演すればぴったりじゃないかと思う。

《亜愛一郎》シリーズの第一作


■「G線上の鼬」

  雪が積もっていた夜、亜を乗せたタクシーが市道G号線
  を走っていた際、突然、タクシーの前に男が飛び出した。

  その男はタクシー運転手で、近頃続出しているタクシー
  強盗に襲われ、なんとか逃げ出して来たところだという。

  雪上の足跡を頼りに犯行現場に行ってみると、なぜか強盗が殺害されており……。



  《雪の上の足跡》を利用したトリック自体はシンプルなのですが、亜の推理に
  説得力を付与すべく作者が全編に渡って幾重にも張り巡らした伏線の多さに
  驚嘆させられます(冒頭の食堂での描写や、中里ララの歌の歌詞などなど)。


  人は知らず知らずに、固定観念に囚われているものなのですね。

  
  あと、襲われたと訴える運転手しか犯人たり得ないという不可思議な状況は、
  タクシー強盗が犯人像を絞り込ませないように用いていた狡猾な手口に淵源
  しています。
  
  
  

「非常識」を見抜く、無垢にして透徹したまなざし

◆第一話「DL2号機事件」

 爆破予告された飛行機に、あえて乗る男の真意は?


 「常識」に安住することの危うさ。
 「常識」が非常識に反転する構造が描かれます。


◆第四話「掌上の黄金仮面」

 巨大弥勒菩薩像の手の上に立つ怪人―。


 乱歩テイスト溢れる舞台設定は、
 決してこけおどしではありません。

 この状況だからこそ犯行に至ってしまった犯人の
 心理の形成過程が無理なく説得的に描かれています。


◆第五話「G線上の鼬」

 市道G号線で、タクシー強盗が殺害された事件。


 強盗を「鼬みたいに陰険〜」と表現したタクシー運転手。
 なぜ「狐みたいに」ではないのか?

 不可解にみえて、実は単純な
 人間心理の機微が暴かれる、集中の白眉。


◆第七話「ホロボの神」

 戦時中、南アジアの小島ホロボで原住民の
 酋長が日本兵の拳銃を使って自殺した。

 しかし、はたして彼らに「自殺」という概念があるのか?


 異なる文明の邂逅によって生み出される密室状況と、
 犯人の犯行動機の設定の見事さに舌を巻きます。


◆第八話「黒い霧」

 早朝の商店街にばら撒かれた大量のカーボン。


 スケールの大きなトリックの必然性が説得的に解明されると
 同時に、亜によって、見事な犯人限定の論理が展開されます。

 冒頭と結末が美しく円環を結ぶかのように収束する佳編。