ひなた (光文社文庫 (よ15-1))

レビュー

4人の視点

それぞれ誰にも言えないことを胸の奥に持ちながら、
普段と変わらない日常を送っていくという作品。
ちょっとした出来事はあるが、何か劇的なドラマチックなことがあるわけではなく、
さらっとした内容。
深い心情までとらえているわけではないので、後味はさっぱり。
少し物足りなさもあるが、さわやかなような、寂しいような、ほんわかするような、そんな作品。

日常生活が不安定なものであること

 大学生の大路尚純と彼女、尚純の兄と兄嫁の男女4人が、それぞれの立場から語り手となり、ひとつの小説を構成している。吉田修一の読者にとってはお馴染みの手法だ。今回は4人の“書き出し”を合わせるといったお楽しみ的な細工も見られる。
 「JJ」連載ということで、女性主人公は兄嫁が雑誌編集者、彼女がアパレルの広報といった「月9」ばりの流行り職業だが、男性のほうは兄が信金勤務、弟がフツーの大学生といたって地味、さらにはプレスの彼女も実は族上がり、こうした予定調和でない設定が逆にリアリティーを生んでいる。本作は4人の視点によって、大路家周辺の家族関係、夫婦関係、友人関係の表層と深層を描き、一見、賑やかで和やかで安らかな日常が、不倫や同性愛や出生の秘密に支えられた不安定なものであることを示している。「東京湾景」は実際「月9」になってしまったわけだけど、甘いコーティングに潜む毒を描くことこそが吉田修一の本質なのだと思う。そして闇を抱えながらも日常を生きていくことを是とする前向きな現実主義と楽観主義に救われる。

JJに連載された作品だったらしい

ということを事前に知っていれば、手に取らなかったかも。
2人のヒロインはそれぞれ、ブランド会社と雑誌編集部に勤務っていうのも、そういうことだったのね、って感じ。
たぶん、そうした設定から想像されるJJ読者の期待を裏切るのが著者の狙いだったのかな。
元ヤンキーとか、夫と妹の間にできた子とか、「熱いトタン屋根の猫」に重なる夫婦像とか。
「単純な恋愛小説」以上「吉田修一の本領未満」ってところです。