- 書名: 眼中の悪魔 本格篇―山田風太郎ミステリー傑作選〈1〉 (光文社文庫)
- 作者: 山田風太郎
- 出版社: 光文社
- 出版日: 2001-03
- 定価: ¥ 900
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レビュー
壮絶な一冊
トリックがどうこう、文章のリズムや美しさがどうこう、ストーリーテリングや着想がどうこう、褒めるべきものは多分にあるが、
やはりいちばん凄いのが、人間心理に対する氏の洞察の深さであり、短篇のなかにこれほど多くの登場人物の心の機微を多面的に書き分け、それをひとつの小説として巧みに絡め組み上げる悪魔の如き手腕であろう。
かれのミステリにおいては、殺人のトリックの謎はたしかにすべて解明される。
しかし人間心理、特にオンナの心理だけがミステリのまま残され、読者の読解に委ねられる。
絶妙の余韻である。
単純な謎解きミステリとして終わらず、文学としても秀逸。
もっと多くの人に、特に若い人に読まれるべき作家だ。
謎の東洋人の正体は?
◆「黄色い下宿人」
千万長者のフィリモア氏の失踪事件の調査を依頼されたホームズ。
その調査のさなか、彼は不可解な行動を見せる東洋人と知り合う……。
ホームズ物のパスティーシュとして名高い作品。
終盤、事件の構図が二転三転するスリリングな展開がなされ、
最終的には、著者一流の皮肉の効いた結末に着地します。
歴史と虚構を織り交ぜ、思いがけない人物同士の共演を演出するというのは《明治もの》
でも存分になされた著者の得意技ですが、本作にもそうしたけれん味たっぷりの趣向が
抜かりなく凝らされます。
そして、歴史を善悪で測らず、ニュートラルに捉える著者の精神は、
「謎の東洋人」が放つ辛辣な一言に、鮮やかに刻印されているのです。
贋作ホームズの最高峰
日本探偵作家クラブ賞(現日本推理作家協会賞)受賞の“眼中の悪魔”“虚像淫楽”を含む、山田氏の初期推理小説集です。 医学生としての専門知識を見事に活用した上記の二作が優れているのは勿論のことですが、私はむしろ山田氏のまったくの創造力の産物、贋作ホームズものの“黄色い下宿人”をなんと言ってもお薦めします。 そう、夏目漱石は、ホームズが活躍していた時代のロンドンに留学していたんですよね。でもその漱石が、ホームズと丁々発止の推理合戦を繰り広げるなんて話を他の誰が考えたでしょう? 話の面白さにワクワクしながら読み進んでいくと、ラスト近くで漱石がこんなセリフをホームズに投げかけます。 “金銭財物にあこがれるのが、必ず貧乏人に限っていると考えるのは、浅薄な見解です。 むしろ手段を選ばず千万長者になった人の方が貧しいもののちょっとした贅沢にやきもちをやき、1シリングにさえも貪婪な渇望を持っているものじゃないでしょうか? 国家に例えて言えば、この大英帝国のようにー”この皮肉、この真実、こんな推理小説を他の誰が書いたでしょう? 恐るべし山田風太郎!
その次の作品、“司祭館の殺人”もアッと驚く贋作もの。 狙ってやったのか偶然そうなったのか、結構荒唐無稽な設定と推理も真作の雰囲気に近いということでなかなかの珍品です。 ぜひご一読を。
「本格!」正統派な感じ
作者は時代物で有名な山田風太郎さんですが、日本ミステリ作家大賞だったかなにかそんな名前の賞を受賞されたため全集(全12巻)が出ることになったその1巻め。美しい装丁の本に惹かれて購入。1巻は「本格編」。2巻「名探偵編」も同時刊行でした。
内容としては本当に「本格!」っていう正統派な感じです。そういうもののお約束として意外な犯人、とか重要なので、登場人物のほとんどが悪いやつなのはちょっと辛いです。でも時代を感じさせない大変よくできた本格ものだと思います。多少差別用語があるのですが「書かれた時代を尊重し」そのままだとか。ラストの長編「誰にでも出来る殺人」は素晴らしい本格ものだと思います。(ちょっとグロいですが)
ほおお
世の中に熱烈な風太郎ファンとはいらっしゃるようなので、かの着想の豊かさと、読ませてしまう文章にリズムに言を重ねることは控えさせていただくも、わたくしのような"Futaro, Who?"の状況にあった人間の脳天にも素直に響いた(実は、忍法帖ものは多少苦手だったりするが)。一般的な評価としては、眼中の悪魔、虚像淫楽、黄色い下宿人、それに、誰にでもできる殺人あたりが必読ということになろうかとは思うが、
小生の趣味の悪さを暴露することを承知で、ご本人も失敗作と断じている、厨子家の悪霊に圧倒されたことだけ付け加えさせていただく。
