- 書名: 叛旗兵〈下〉―妖説直江兼続 (徳間文庫)
- 作者: 山田風太郎
- 出版社: 徳間書店
- 出版日: 2009-05-01
- 定価: ¥ 680
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レビュー
天よ聞け、地よ耳をすませ、人よ手にとれ。
徳間さん、復刊大感謝。
山田風太郎の小説は、忍者もの戦国ものより、明治もののほうが好きだが、
これは別格。
今から30年前、専門家かよほどの戦国ファン以外は知らなかったはずの、
名将直江兼続、そして快男児前田慶次郎を、これほど面白く描いた山田の炯眼、
豪腕には、つくづく頭が下がる。
上巻は関ヶ原と大坂の陣の間を舞台に、上杉家の存亡、豊臣恩顧の名将たちの思惑、
徳川家謀臣本多正信の庶子長五郎の魂胆などが絡みあいつつ、抱腹絶倒の大活劇が展開。
前田慶次郎ほか、武蔵も小次郎も登場。ここまでは、とにかく涙が出るほど面白い。
下巻ではさらに、京都二条城の大廊下を舞台に、強引な「浅野家」と謹直な「吉良家」、
さらに侠気に溢れる「上杉家」がからむ、後の赤穂事件のパロディや、出雲阿国も登場、
益々筆が冴えまくるが、真田幸村が顕われるころから、次第に面白さに緊張感が加わる。
そして、あれほど君臣相和していた直江兼続と前田慶次郎ら直江四天王との間に……。
このあたり解説者も触れているが、後半の哀調は山田作品でも出色。
そもそも題名の「叛旗兵」とは不思議な響きで、山田風太郎ものでなければ「?」だろう。
途中、物語のあまりの面白さにそんなことは忘れるが、下巻も最後半になって、
その意味を悟る。そして、山田がこの一見荒唐無稽と覚しきエンターテインメントに籠めた、
冷徹な史観と人間観に共感を覚える。
執筆年代でいえば、忍法ものと明治ものの間というのもうなづける。
つまり、『警視庁草紙』や『地の果ての獄』で花開く、史上の著名人が見事に交叉する手法が、
戦国末期を舞台に、華やかに試みられ成功している。
しかも『魔界転生』のような怪力乱神でなく、あくまでこの世の悲喜劇として描かれる。
NHK大河で直江兼続を採り上げたからこその復刊だろうが、どどちらが直江の真実に近いか、
それこそ、「天」も「地」も御照覧あるべし、だ。
もちろん読書「人」も。
