春、バーニーズで (文春文庫 よ 19-4)

レビュー

せつない

人生を生きていく中で、ときおり本道から外れて横道にそれそうになるときが、誰しもあると思う.

この本の主人公筒井は本道からそれないように、きちんとまじめに生きようとしている.
妻の瞳と向き合い、血のつながらない子供の文樹とも向き合い、日々を過ごしている.
だが、どこかで横道にそれる勇気がない自分をいくじがないように感じている.

かつていっしょに棲んでいた相手とバーニーズでばったり会ったり、夫婦で嘘つき遊びをしてみたり、通勤途中に衝動的に日光にむかってみたり、、.
日常の中のふとした瞬間にその気持ちが見え隠れする.

読み進むうち、特に後半から、筒井のそんな気持ちがしんみりと伝わってきて切ない気持ちになる.
私にもあるよ、そんな時が!と筒井を励ましたくなってしまう自分がいた.

誰でも年寄る

誰でも年を寄りますが 最後の息子を読んでこの本を読むと少し悲しくなるかな。
そして夫婦で交わす質問 ちょっと きついかも。

短編小説の醍醐味を味わうことができます。

読後は、期待していたような内容とのあまりのギャップに拍子抜けしました。でも、その後じわじわと主人公の気持ちに共感できるようになっていきました。誰もが持っているであろう、自分を「大人」にしてくれた出会い。短編だからこそ解釈は読み手に委ねられ、短編小説の醍醐味を存分に味わうことができました。

短編小説は少ない情報量で読者を物語の世界へと誘わなければならず、長編小説よりはるかに難しいと言われます。それだけに、タイトルも重要な要素。この作品は、「春」「バーニーズ」という一部の人なら確実に胸がときめくであろう記号を巧みに盛り込んだことで、勝負ありです。広告のキャッチコピーのように一瞬で読者を射抜く、優れたタイトルだと思います。

読みたかったけど、読みたくなかった。

著者の「最後の息子」の「その後」ということで興味を持って覗きたくなった。
最後の息子ほどの新鮮さはもう感じられない。
何処にも属さずモラトリアムな生活を送っていた主人公も今や妻子持ち。
バツイチの妻の家に暮らす子煩悩なサラリーマン。
ある日、新宿のバーニーズで若い頃同棲していた相手(おかま)に出会う。
その時から自分の中の何かが動き出す。
自分がどこかに置き忘れてきたものをもう一度探してみたくなる。
今まで、意識的に探すことを封印してきた自分が見えてくる。
探すこと、見つけることで新しく失うものがあると分かっていながら。
一歩踏み出すか、そこに留まるか。
思い切って踏み出してほしいと思う気持ちと、止めるべきだと思う気持ち。
そんな、読む側の微妙に揺れ動く心情がそのまま作品にシンクロされる。
そして結末。。。。
もう、これで終わりにしたい。この後は読みたくない。
この主人公の人生をこれ以上覗いてみたいと思わない。

ふっと思いよぎる瞬間

青年時代を通り抜けて、何気ない毎日に埋没しつつある夫婦の一瞬を切り取る。

買い物に出かけたデパートで気づく視線。その先にあるのは20代を一緒に過ごした人がいる。
その過去に懐かしさを覚えながらも今の自分とは相容れないことも感じている。

主人公夫婦の過去を少しずつ垣間見せながら、
今の日常生活がふっと崩れる瞬間を切り取っている。