海へ (文春文庫)

レビュー

著者らしさ

全体的に淡白な感じで山なし、オチなし、意味なしの中に、なんとなく力の入らない清楚な雰囲気や風景が漂っていて、ちょっと微笑んでしまう話があるという著者の本らしさがいかんなく発揮された本です。
読んだ後に、上のような気分になる本で、私は著者のこういったところが好きです。
主人公は、慢性の軽い精神疾患もちの医者の小説家で、これは著者の投影だよな・・・。で、その主人公が昔の友達のところへいくと、利発そうな顔つきの胸のでかい文学好きな女子高生がいて、娘は主人公のことを尊敬していて、2人きりでいろいろ話して秘密の場所へいき楽しい時間をすごすという読後に分析的に振り返ってみるとかなりギリギリな話だな(著者もあとがきでそんなことを示唆してますが)と微笑ましくなってしまう読後感も乙です。そんな妄想すら、淡白で、山なし、オチなし、意味なしで清楚な感じでちょっと微笑んでしまう話があるというところに著者らしさがよくあらわれています。

心の病を持つ人の怯え

いつまた発作が起きるかもしれない。そういった著者の怯えが少し健康的な方に向かっているのがわかる。
そして著者自身が書いた文庫本のためのあとがきでは、さらに回復していることがわかる。
知人の娘の高校生の揺れ、その母の病と主人公の病とが海と山とで対比されているように思う。
しかし普段何気なく使っている言葉にも棘があることを教えてくれた主人公の息子の国語教師との会話が心に残った。

気持ちが少し楽になる1冊です。

この著者の本を読むのは初めてで、「海」と「心の病」という言葉になんとなく惹かれ、同時に著者のプロフィールを読んで、なぜかひきつけられてしまいました。
読んでいて深く考えさせられる場面はこれといってなかったのですが、読みながら海のみえる診療所の自然豊かな情景が浮かんできて、自分自身もはりつめていたものが緩んでいく感覚を覚えました。
ゆっくり読んでいただきたい一冊です。