諸国畸人伝 (中公文庫)

レビュー

石川淳、畸人探訪

江戸末期から明治にかけての諸国の畸人たちを描いた文集。取り上げられるのは多芸多才な左官職人、漂白の果てのたれ死んだ俳人、堅忍にして風流も解した商人など十名(ただし補遺あり)。存命中の幸不幸・現在での有名無名は様々ながらどこか世の中からはみ出した人物たちについて、気ままな筆致で書き付けていく。現地に取材し文献や聞き取りを交えるが、評伝と言うほどではなく雑記帳の様相である。読者はのんびり肩の力を抜いて畸人雑知識が得られる。

畸人たちの人物と作物にのめりこむことなく一定の距離を置いていて、対象への思い入れを感じさせない。「句も書もいうにたりない」(p116)「じつにヘタクソな文句であった」(p146)といった具合。良く言えば突き放した乾いた評価だが、ならばなぜそんな人物を題材にしたのか、わざわざ一書をものしたのかと虚しさを覚える。しかも著者は実際に取材先から同趣旨を問われて「つまらぬことです」と笑って開き直っている(「武田石翁」p197)。結局は題名こそ畸人伝だが彼らをだしにした石川淳の自分語りエッセイ集。(なお坂口安吾の父阪口五峰を「どれもおそまつであった。完璧である。」と評したりするのは楽しい)

となれば肝心の石川の文章芸がどれほど楽しめるものかということだが、どうにも難がある。確かに透徹した視点はぶれを見せず、小技を利かせて諧謔を入れ快調に進めてはいる。漢籍古文の素養ゆえか簡明ながら密度が高い。学識とセンスの裏打ちを感じさせる。しかし残念なことに、長い。快調はだんだんと単調となり平板となりとぼけた風味が逆に鼻につくようになってくる。刈り込み不足。この作家の熱烈なファンでもない限りコストパフォーマンスは厳しくつけざるを得ない。星二つ。