- 書名: 遙かなるものの呼ぶ声 (中公文庫)
- 作者: 日野啓三
- 出版社: 中央公論新社
- 出版日: 2001-03
- 定価: ¥ 700
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レビュー
まるでそこに立っているように。
前半部分の乾燥地帯の旅行記に心惹かれて手に取った。読むと、実際にそこに立っているような気持ちにさせてくれる。本の中でひとつだけ、旅行記ではなく慶應義塾大学病院に入院した時の文章がある。これがまたすごい。日野氏の「台風の眼」という本でも感じたことだが、「死」に向き合うその姿勢が私を釘付けにする。「世界はどこでも荒涼と美しい」という氏の言葉をかみしめながら、時折ページをめくってみる。
世界との連帯感
エアーズロック、カッパドキアの岩窟群、タクラマカン砂漠、杭州、慶応病院、秋田大湯環状列石を、日野氏が訪ねて書き連ねた紀行文集。何か必然的な理由があって自分は今ここに在る、という思いを持ちつつ、ピンと張りつめた神経で世界と対峙していく文章は、日野氏ならではでしょう。少ない経験から最大限演繹して思索を突き詰めて行く筆者が辿り着いたのは、何かが足りないという焦燥感ではなく、すべてが満ち足りているという充足感のように思います。この世界の全部とつながっていて、この時空の流れの中で生かされているという感覚は、孤独感ではなく、世界との連帯感を感じ取っている筆者の余裕なのでしょう、そんな雰囲気が伝わってくる美しい日本語の本です。
