夢を走る

レビュー

都市幻想短編集

本書は、日野氏自身が自作の内でも特にお気に入りとして挙げている短編集です。
確かに、晩年の短編集に比べて、若さというか、透明で瑞々しい印象が目立ちます。
平易な文章で日常を描き、気付いたら超現実の世界に入り込んでいます。

・主人公のサラリーマンと違い、超現実をとらまえられ、空中から不思議な結晶を掴み取ることが出来る、彼の子供である幼い次男を描いた、何処となくカフカエキスに富んだ『ふしぎな球』。
・都市のマンションの中で、ゴミ捨て場に現れた奇妙な生き物が、人々を結び付け、主婦は次第に飽きてしまっても、主人公は常に愛着を感じ、最後には「砂」という食料を見つける『砂の町』。最後の文章が好きです。
・石の花を育てる夫婦の、「子供」と名付ける隕石の花が咲く瞬間が、とても透明で美しい芸術品、『石の花』。日野氏の無機物への偏愛が結晶化されている。
・「なぜと問わないために走り続ける」「夢は現実で、現実は夢だ」というような(すいません、正確な引用ではない)文章が印象的だった『夢を走る』。

などが印象的でした(『星の流れが聞こえるとき』も素晴らしいけど、個人的に既に読んだことがあるので割愛)。

現代のような慌しい生活の中でも、本書を読むことで、スッと心を冷たく優しく気持ちよく溶かしてくれる、素晴らしい短編集です。