あの夕陽

レビュー

論理的でありながら、どこかとても幻想的な文体

特派員として送られた異国で出会った女性の存在が、すでに冷え切った夫と妻の関係をむしばむ、氏の芥川賞受賞作である表題作をはじめ、韓国でシンポジウムに出ているうちに、敗戦時に京城(ソウル)で荷車を引いた経験に意識が飛んでいく「赤い月」、息子と広島の実家で蛇を見ているうちに、戦時中の下宿先の娘を思い出す「蛇のいた場所」、変わる東京を描く「黒い水」、岩手に取材旅行に出て、岩手出身の母を想う「雪女」、異国のキリスト教遺跡を訪れる「果ての谷」、短篇計6篇を収録。

日野氏の小説は、エッセイとフィクションの中間のような雰囲気のものが多いですが、この初期短篇集も、そんな味わいの文章ばかりです。細かい情景とか、色とか、匂いとかを、鋭い感受性そのままに描ききり、「ああ、そういう雰囲気って分かる分かる」、と思っているうちに、何時の間にか筆者と読者の意識の流れがシンクロナイズしてしまう、そんな不思議な小説です。論理的に文章を組み立てながら、どこかとても幻想的なところが大好きです。