- 書名: 兵隊たちの陸軍史 (新潮文庫 (い-30-12))
- 作者: 伊藤桂一
- 出版社: 新潮社
- 出版日: 2008-07-29
- 定価: ¥ 660
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レビュー
兵隊とは死ぬことと
兵隊たちの生活については、ことさら、悲惨さのみが目立つ著述が多い中で、
本書は、一定の客観性を持たせて書かれてある。
あれが良い、これが悪いという反省よりも、なるべくありのままに伝えようとする
著者の思いが伝わってくる。
受け取る我々は、何を感じ取って次へのかてとするのか?
考えさせられる良書である。
「兵隊」たちの陸軍史
本書は、昭和44年に番町書房から刊行された著作を文庫化したもの。
書名どおり、陸軍の「兵隊」たち(主に中国戦線)がどのように、訓練され兵隊となり、どのように戦い、どんな気持ちで生きていたかを記述した本である。
本書は、
・「戦略的観点から日中戦争や太平洋戦争を記述したもの」ではなく、
・「対米英戦(真珠湾やガダルカナルやミッドウエーやレイテや硫黄島や沖縄戦や戦艦大和)の戦記」ではなく、
・「終戦前後の日ソ関係、ソ連による満州侵攻やシベリア抑留」ではなく、
主に日中戦争の実態が書かれている。
上記のような大局的な戦争観や主にアメリカとの戦闘については多くの著作があふれており、私もそれなりに知識がある。
一方、本書のように中国に駐留していた日本軍がどのような立場にあり、どのように戦い、暮らしていたかはあまり読んだことがなかったので、たいへん興味深く読んだ。日中戦争が太平洋戦争前から長年続き、日本の進路にも重大な影響を与えたにもかかわらず、あまり記述されないのは考えてみると奇妙なことであり、その意味で本書は貴重な著書といえる。
反面、ていねい・平易に当時の陸軍兵士の事情を説明しているものの、少し今の時点で読むと分かりにくい部分もあり、私の場合「スラスラ読む」というわけにはいかなかった。(たぶん昭和44年の時点では説明の必要もないことが、私のような戦後世代にはわかりにくい部分があるのでしょう)
自らは安全な場所にいて(無謀な)作戦を立案していた軍中枢部についてではなく、戦争中、実際に銃をうち、負傷したり死んでいったりした兵隊たちの実情や空気がよくわかる本であり、とても貴重な本だと思います。
旧日本陸軍について知りたい方は絶対読むべき本
基本的には戦前の軍隊経験がある著者の経験や聞いた話による帝国陸軍の実相についての本です。
兵隊としての立場から淡々とまた冷静に様々な側面を語ってくれます。
ただそれだけの内容なら他にも類似の書籍はあるかもしれません。
この本が貴重なのは、それとは別に日本陸軍を知る上で貴重な情報が多く含まれている点です。
一つは「内務班とはなにか」という事。
平時の軍隊というのは、下士官以上の職業軍人と徴兵検査を甲種合格して抽選で選ばれた現役兵からなりますが、この段階では小隊以下の単位は編成されていず替わりに内務班という物が存在します。師団は定数を大きく割り込んだ人員しか保有していません。
戦時体制になって動員がかかると、赤紙によって集められた召集兵によって定員が充足されて、小隊以下の単位が編成されます。
こうした事についてわかりやすく解説してくれます。
またあるいは兵団文字符についての解説もあります。
旧陸軍の師団には「烈」とかの名前が付けられて、烈11428部隊などと指揮下の部隊を呼びますが、これが何かについても詳しく説明しています。
こうした事実は最近では他の本やネットでも解説が存在していますが、つい最近まではこうした事はこの本でしかちゃんとした解説はありませんでした。
今まで「古書店で発見したら迷わす買いましょう」レベルだったこの本が文庫本で手軽に入手できるようになったのは非常に嬉しい事です。
繰り返し書きますが、旧日本陸軍について知りたい方には必読の本です。
彼らはよく戦った、それに比べて…
中国戦線に6年半も従軍した著者が、末端兵士の生活、戦場のあれこれを語る。
どれも当事者でなければ書けないものばかりだ。日本兵は不平不満はあっても、皆、黙々と忠実に懸命に任務を果たした。理不尽な命令にも文句を言いつつも耐えた。そして良く戦った。よくこんな命令に従ったものだ―読みながら何度もそう感じた。
だが、戦争が終わって米軍将校の言葉が印象的だ。
「我々は中国を相手にしない、日本軍を信ずる、君らは南方で実によく戦った、勝敗の問題ではない」
ベストを尽くせば敗れても勝者はそれなりに敬意を表する。
翻って現在の日本人はベストを尽くしているだろうか?我々の先達に恥じない生き方をしているだろうか?大いに反省し教訓となる本だ。
ただ、初出昭和44年と戦後20年ちょっとしか経てないせいか、後の著者の本に比べ旧軍を糾弾する調子がややきついか?
穏健で公平
冒頭で「穏健で公平」な立場を心がけたとあるように戦争に対してイデオロギーを極力排して実際の軍隊がどのような生活を送っていたかということが書かれてあります。
兵隊たちは天皇のために戦ったのではなく「お国のため」の戦ったということ
内務の私的制裁よりむしろ戦場の方が開放感があった
など、何となく心情がわかるような気がしました。
中国に軍隊が駐留していたこと自体、現在の感覚からすれば奇異な感じですが歴史の連続性の中でこのような時代があったことを忘れてはならないと思いました。
