孤宿の人〈下〉 (新潮文庫)

レビュー

鬼は退治?

最後は、思いがけず声を出して泣いた。
読み始めて3日、ここまで泣いてしまうほど主人公が自分の心のなかに入り込んでいたとは、意外だった。

世間から鬼のように思われている罪人の心に光をあてるこの著者の作品にはいつも引き込まれる。
『理由』もそうだった。罪を犯した人間は、(当然だが)犯す前まではただの人である。
鬼が人の心に入り込んで残虐な犯罪を犯すのか、状況が人を鬼に変えるのか。

いま世間で起こる犯罪についても、マスコミが報じる片側の側面でしか起きたことを捉えることができないがもしかすると実は、その裏側には複雑で切ない事情があるかもしれない。

いままで無関心だったが犯罪者が法で裁かれるとき、逆に法はどこまでその被告を救えるようになっているのだろう?どこまで、犯罪にいたるまでの環境や経緯を重視してくれるのだろう?
犯罪者を鬼に仕立て、「鬼だから退治してしまえ。」とするのは一番わかり易く世論もその場では納得するかもしれないが、それでは本書に出てくるたたりの噂話などで情報操作されて右往左往している丸海藩の領民と同じではないか?
決して面倒くさがらずに、人の心に光をあて自分の頭で考えるべきだ。

涙が止まりませんでした

あまりにもひどい仕打ちを受けてきた「ほう」が哀れで、わずか9歳なのに、
働いていないからご飯をたべちゃいけないという。
まずここで堪えきれなかった。その先も何度も涙が堪えられなかった。
この物語は、事件や事故で何人もの人が死んでしまい、妬み、陰謀など蠢く
凄惨な話でもある。その中で「ほう」の純真さが浮き立ち、せつなくもあり救われもする。
御霊と恐れられる流刑人「加賀様」の下女となったあと、ある事件をきっかけに
「加賀様」と毎朝会うことになり、「加賀様」は「ほう」を一人の人間として接し、
無学であった「ほう」に手ほどきをする。
「ほう」も懸命に加賀様に応えようと努力する。
疎まれていた二人のやり取りが一番人として真っ直ぐに生きているように感じた。
自分のため、流刑地「丸海藩」のため、死を望んでいた「加賀様」は「ほう」との
やり取りが最後に人間らしく生きた証であり、安らぎだったと思う。
「ほう」も加賀様が死の間際に名を授け、阿呆の「ほう」から「宝(ほう)」に
昇華した。ラストも「ほう」に救われ、静かに読み終わることができた。
宮部さんの小説は本作が初めてで、禍々しい部分もあったが読み応えのあるいい作品だったと思う。

物足りない

宮部作品が好きな理由は、どんな凄惨な内容でも読後には「人間ってすばらしい」と、パンドラの箱のような感情を持てるからでした。読者をぐいぐい引き込む文章力はさすがです。たった2行で涙がこぼれました。

でもこの作品にパンドラの箱は開かなかったな〜。

久しぶりに活字に泣かされました。

物語のそれまでの人間の怖さ、弱さ、愚かさ、ドロドロした部分、全てがラストシーンを美しく感動的にしてくれる作品でした。
最後迄読んだ時、涙が止まりませんでした。
そしてしばらくボーゼンとしてしまいました。

作品解説に連載を中断しようとしたエピソードが入っています。

それを含めて出会えて良かった。と思える本でした。

和製キング

「金毘羅さままでは、峠をふたつ越えるだけ」の所にある、山と海に囲まれ温和な人々が暮らす小藩・丸海。この地に数奇な運命の末にたどり着いた少女「ほう」。のどかな町に突如持ち上がった“加賀様お預かり”とその騒乱にまぎれ動き出す人々の心に潜む「鬼」たち…。
 この下巻では、「ほう」と彼女を取り囲む人々の運命の歯車が一気に加速していきます。巻末の解説で児玉清さんもS・キングの『小説作法』を引き合いに出していますが、さまざまな人々を通して引かれた伏線が終末に向かい一気に展開していく手法は全盛期のキングの小説を彷彿とさせます。そうした作者のストーリテリングの上手さももちろんのこと、一つ一つの言葉の使い方の美しさも光ります。途中、物語の流れが緩慢になってしまう部分もあるものの「久しぶりに小説を読んだ!」という気持ちになった一冊です。