7月24日通り (新潮文庫 よ 27-3)

レビュー

踏み出してみる。

踏み出してみる。
間違いかもしれないけれど、
もしかしたら、
物語の主人公になれるかもしれないから。

地味で目立たない地方都市のOLの恋の行方が気になってしまうんだから、大したものだ!

吉田修一の小説の魅力は、描かれる都会の情景が詩的で美しく心に染み入ってくること。でも、本作は地方都市の平凡な冴えないOLを主人公としたせいか風景まで冴えず小説の魅力減。筋立ては、冴えない女の子がウジウジしながら憧れの格好いい彼氏にアプローチするという「少女漫画」をベタでいくスタイルで男性読者にはつまらないかもしれない。

各章の表題が地味で目立たない女の特徴をズバリ描いている。「モテる男が好き!」、「イヤな女にはなりたくない」、「どちらかといえば聞き役」、「初体験は19歳」・・・「間違えたくない」など、男性としては、これじゃ「いい男」を捕まえるのはNGだろというところだが小説の方はかなり期待をもたせてくれる。

「主人公」と「モテる先輩」。「主人公のモテる弟」と「冴えない彼女」。「冴えない職場の同僚」と「モテる先輩の元カノの奥さん」。「元カノの奥さん」と「モテる先輩」の不倫。冴えないが心安らぐ男からのアプローチ。小説の構成がとても良く出来ていて、三つ巴、四つ巴の恋の行方が気になり最後まで読ませる。結局、主人公が選んだのはこの男か、というところで読了する。なかなかの良書です。

読みやすい若い人向きの本

読了後、カバー裏を見ると著者の作品「東京湾景」を以前読んでいたことを思い出しました。その本に対しては「ドラマのように流れるストーリーだが、不要な登場人物もいて完成度が低い」といった印象を覚えました。
本書でもドラマのようにそれぞれの情景が目の前に浮かんできます。何気ないOLの日常がエッセイ風に少しずつ進行していき、結果として一つの読みやすい小説になっています。結末は逆であってほしかったのですが、それも若い人の選択なのでしょうね。

こうして強い女性が生まれていくんだなぁ

表現のしかたに女性らしい感覚があり、とても日常的な言葉で綴られているので読みやすい。
主人公の嫉妬感に共感できるところがあり、目立たずぱっとしない主人公が、次第に成長して行き最後は予想と違ったが納得できる終わり方だった。

私の周囲に張り巡らす二重化のバリア

うまいこと考えますね、というのが最初の感想です。主人公の女性が、自分のように冴えないくせにかっこいい彼氏(しかも自分の弟)をもつ女性に対する嫉妬と同情が、小見出しにうまく取り入れられています。主人公の気持ちかと思いきや、すべて彼女の自己分析だとわかる。主人公が勝手に「私と同類」と思っていることともつながっています。

小説全体が主人公を中心にしてこの「同類」=「二重化」でできています。「かっこいい男」としての憧れの先輩と弟、「いまいちな男」としての同級生と画家崩れ、「いまいちな女」としての私と弟の彼女、そしてこの街とリスボン。こうした二重化は私の現実からの逃避のせいなのです。私は自分の現実と向き合わないようにするために、周囲を二重化してあいまいにしています(こんな田舎に住み、いまいちな男に告白される、かっこいい弟をもったさえない私)。この私を現実から守るための二重化戦略が崩れていくことで物語が動き出す。

ところが、最後に「かっこいい男」に会いに行く場面は、二重化戦略をなくすような大胆な行動のようですが、実はあいまいな二重化を強化することになっているのではないでしょうか。明らかに心が共振している画家崩れの男ではなく、すでに見込みがないことがわかっている先輩へと向かうことは、もうひとつの現実からの逃避ではないでしょうか。心のつながり(なんかわかる)よりも社会的な評価(かっこいい)を優先することは、自分から出たものではないものを信じてみるというポーズに見えてしまいますが、どうなんでしょうか。

ともかく、構成と細かい機微の描き方はさすがにうまいので一気に読めます。良質の小説です。