- 書名: 雁 新潮文庫
- 作者: 森鴎外
- 出版社: 新潮社
- 出版日: 2008-02
- 定価: ¥ 340
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レビュー
運命の切なさに満ちた名作
本書は鴎外初心者におすすめしたい一冊だ。文章はあくまでも怜悧明晰で読みやすいし、ストーリーも恋愛物でとっつきやすいし、東京に住んだことがある人はかつての東京を思い浮かべることができて楽しいだろう。しかしながら、本書は単なる恋愛物ではない。高利貸しの妾となり、さらには思いを寄せた岡田には洋行されてしまう女性がヒロインである。本書を読んで唸らされたが題名の『雁』である。最後の方で不忍池の雁が、投げつけられた石に当たって死ぬのだが、これは運命に翻弄されたヒロインお玉、そして我々をも表しているのである。鴎外の作品の中には小難しくてとっつきにくいものも少なくないが、まずは本書から鴎外の世界に入って行くのがいいだろう。
やや凡作か?
最近私は明治から昭和初期の小説をよく読んでいて、『雁』を読む前は谷崎潤一郎の『春琴抄』を読んだ。『春琴抄』は谷崎の代表作だけあって、非常におもしろく読めて満足したのだが、『雁』はどうも内容が散漫で、読んでいる途中でだるい気分になることが多かった。私の印象では、鴎外の処女作『舞姫』のほうがずっとよかったと思う。ただし雅文体で書かれているので、現代の私たちにはかなり読みにくい。そこで「読みやすさ」という点から『雁』がすすめられることが多いのだと思う。
しかし、読みやすいのと引きかえに、内容まで凡俗になってしまっている感がある。これがもし鴎外作でなかったら、果たしてここまで長く読み継がれる小説になっていたかどうか、大いに疑問だ。
作者の迷いが伝わってくる。
相変わらずの淡々とした文体が冴え渡っているが、
どことなく物語のバランスが悪い気がする。
肝心の岡田と玉の間の事よりも、玉の境遇の説明の方が分量が多い上、
高利貸が玉を得るまでの過程についても妙に丁寧に記述されている。
途中で完全にブン投げられてしまった「お常」の存在はどうなのだろう。
第一人称視点と第三人称視点の語りが前後するが、
これは実験的な試みと云うより、作者の筆の迷いそのままのように見える。
「山椒大夫」「舞姫」「ヰタ・セクスアリス」がとても良かったので、
この「雁」も読んでみたのだが、ちょっと期待はずれだった。
上記三作が良かったので期待し過ぎていたのかもしれない。

