短篇集 落葉 神の小さな庭で

レビュー

筆者と読者の意識の流れが一致するような、不思議な作品集

日野啓三氏が、2000年元旦にくも膜下出血で倒れ入院、退院後に小説すばるに2000年12月から約一年間連載した短篇を収める。短篇集と言うよりは、入院や通院を通じて感じたことを書き連ねたエッセイ集のような味わい。

文章のリズムと漢字とひらがなの美しさに身をひたして、味わいながら読んでいくうちに、筆者の意識の流れと、読者の意識の流れがだんだんシンクロナイズして、日野氏が見ているもの、感じているものが、圧倒的なリアリティをもって迫ってきます。そのリアリティの源泉は自分の古い記憶であり、何年も忘れていたことが急に色と匂いと実体を伴って復活してくる、そんな感覚を楽しみたい方にお勧めです。

たびたびの入院生活による体力減退のせいか、文章のキレは今ひとつですが、その分言いようのない優しさにあふれた散文です。この後2002年10月に亡くなったことを考えると、何とも不思議な気持ちになります。ご冥福をお祈りいたします。