- 書名: 舞姫 集英社文庫
- 作者: 森鴎外
- 出版社: 集英社
- 出版日: 1991-03
- 定価: ¥ 330
- この本の詳しい情報(Amazon)はこちら
レビュー
エリス可愛いよエリス。
出会って早々に豊太郎に無意識に体を近づけ、ハッと気づいて飛びのいてみせたり、
「あたしを見捨てないでくださいね」と繰り返し繰り返し豊太郎に懇願したり、
ロシアから帰ったばかりの豊太郎に駆け寄って抱きつき、カバン持ちの馭者を当惑させたり、
豊太郎と自分の子どものおむつ用の布をうず高く積み上げて嬉しそうに笑ったり、
相澤から真実を告げられて、豊太郎に対して「よくもここまであたしを騙しなさったな」とぶち切れたり、
ショックで倒れて床に付してから、おむつ用の布に顔を当てて泣いたり、
その挙句……。
エリス可愛いよエリス。エリス哀れだよエリス。くれぐれもDV母親にはならないで欲しいよ。
そして豊太郎は相澤を恨みたくなるのは分かるけどもっと自責しようよ。
芸術性とか思想性とか難しい話はさて置いて、この話は面白いと思う。エンタメとして。
近代文学劈頭の傑作
表題作は完全な文語調で、最近では敷居が高いと思われるせいか、井上靖の現代語訳などが出ているが、「翻訳」は無用だろう。しばらく我慢して読むと、現代語のように理解できる程度の「文語」だ(私は高校教育程度の文語文献読解能力しかないが困らなかった)。話は、今となれば、古めかしい、エリートと身分の高くない女の異国の悲恋の物語。一旦は女のために職を失い、そこで初めて別の「現実」に直面した主人公が、起死回生のチャンスにすがり付いて、女を捨てて異国を去り、女は狂女になって終わる話。だが、後年史伝で「作り物」と「現実」の差を埋めようとした鴎外の「現実に対する目」は既にここにあるように思える。この話は決して小説のように閉じておらず、解決できていない問題を、そのままに放り投げた形で終わっている。単なる悲恋物語なら、エリートが改心して女の元に戻るが、とき既に遅かったとか、なにか「閉じようとする」のだが、本書は、狂女はそのまま、出来た子供もそのまま、主人公は、心にしこりを残したまま、「帰国」する。批判も非難も同情も無く、事実が「放り出されて」いる。ところで、文体の絢爛なること、人の追随は不可能なほどの高みになっており、それだけで、一級の「お宝」だ。吉本隆明の「言語にとって美とはなにか」では、江戸期以来の「文学体」の最高峰としながらしかも、「美文調から表現の話体へ下降しながらちかいづいていく過程」の完璧な例として、画期的な位置づけが与えられている。読者を引っ張っていく牽引力がある「名作」の条件も備えていた。
傑作だと思う
この本には表題作の舞姫の他に普請中、妄想、雁が収録されています。
以下それぞれについて。
舞姫
文体が読みにくいかもしれませんが慣れている方にはなんともないかもしれません。それに短いですし・・・。この文体は当時は「ハイカラでモダン」と言われていたそうですが、今読んでも素敵な文章だなぁとうっとりしました。
家名再興、立身出世を意気込んでベルリンに留学した豊太郎が封建的な官僚機構などなどに縛られた自分に疑問を持ち自我に目覚める。踊り子エリスとの交際を中傷され免官された豊太郎はエリスと幸せな日々を送るが、友人の尽力によって日本での社会復帰の機会を得る。故国への思いや名誉回復の願いとエリスとの愛のジレンマで苦悩するが結局はエリスとそのお腹にいる子を捨て帰国する。
という自我に目覚めてしまった知識人の苦悩と挫折が巧みな筆致で書かれていて感動します!
私はベルリンの街の描写がすごく好きです。
あと帰路の船の中ではどんなこと考えてたんだろう・・・と考え始めるととても切ないです。
普請中
この作品中の大人な会話がすごく素敵で好きです。
雁を読んでいても思うのですが、森さんはかなり女心に鋭いと思います。「なんでそんなところまで見抜いてるんだ!」とびっくり。
本作にでてくる女性はエリスと同じ女性がモデルみたいです。
妄想
…あまり印象に残らなかったのですが、この作品を読むと森さんがいかに冷静に理知的に現実を凝視していたかわかります。
雁
高利貸しめかけとして生きる女性が恋を知り自我に目覚め、己の愛に生きようとするが偶然の出来事に阻まれてしまう。
この作品は大好きです。森さんの鋭い視点にびっくりです。下町の人情や風俗も描かれていて面白いです。
この一冊はおすすめです。楽しめる&勉強になること請負です。それに値段もお手ごろなので…
読みにくいけれど、読む価値あり
清楚な西欧世界に触れ、近代的な自我に目覚めたエリート青年が、結局は世俗から脱け出せずに挫折していく姿を和文体で描かれています。
太田豊太郎は、秀才で、官命によりドイツに留学。三年ばかり「自由なる大学の風」潮の中で学び、「真の自我」に目覚めます。
そのころ、貧しい踊り子エリスを救ったことから交際が始まります。留学生仲間の中傷により豊太郎は免官。それを知った母の死が伝えられ、進退きわまった豊太郎はエリスと結ばれます。
エリスの妊娠がわかったころ、相沢の仲立ちにより、天方伯を知り、帰国を勧められます。豊太郎は苦悩しつつも、もとの出世コースにもどります。
狂乱するエリス。豊太郎の胸中は複雑なものがあるでしょう・・・
この作品は確か、私が高校生のころ視聴覚室で映像作品として鑑賞した記憶があります。
主人公豊太郎は「郷ひろみ」が熱演していました。もちろんドイツ語で台詞を話されていました。
エリス役の女優については、でっぷりとしていて、「原作のエリスとイメージが違う!」と友達同士で批判し合ったものです。
・・・実在のエリスは‘小柄で美しい人’だったそうですが。
鴎外を追って来日しましたが、親族が説得。船べりでハンカチを振り寂しく帰国されたそうです。
