ぼんくら〈上〉 (講談社文庫)

レビュー

構想力の素晴らしさを感じ取れる作品

SFも推理小説も書ける宮部みゆきの筆力を感じさせる時代小説の傑作です。上下2巻に分かれますが、先が気になり一気に読みました。
宮部みゆきの人物描写の巧みさと時代考証の確かさ、そして推理小説仕立ての展開が飽きさせませんでした。おっとりとした同心・井筒平四郎の存在が作品全体に漂うゆったり感を醸し出していますし、長屋を取り仕切っている煮売屋のお徳が狂言回し的な存在で、最初から最後まで大切な役割を果たしました。政五郎親分のところにいる奇才おでこの超人的能力もまた小説に深みをもたらしました。烏の官九郎が伝書鳩かわりに活躍するなど小説の醍醐味を味わいました。

深川北町の鉄瓶長屋の描写も映像を見るように鮮やかに描写してあります。藤堂和泉守屋敷の裏ですから、江戸の古地図と照らせ合わせば場所がはっきりと見えてくるでしょう。
また江戸時代の町人の自治組織の町年寄、名主の下にいる差配人の存在がこの小説のキーになっています。大商人の湊屋総右衛門が一方のキーパーソンですが、伝聞描写やエピソードだけでなかなか実際に登場しないのも、にくい演出でした。詳しい内容や展開は小説の性格上、省略いたします。

本作は小説現代で18回掲載されたあと、加筆訂正されていますので、連作の形をとった長編小説という珍しい形式なのも理解できます。作者のストーリー・テラーとしての巧さを感じました。

良し悪し不満も

前半の短編は、読んでいて必要はないのでは?と思っていながら読み進むと上巻の半ば〜下巻にかけての伏線のために必要だったのだと感心した。
「弓之助」と「おでこ」が出てくるまでは、長く感じ途中で本を置いてしまおうと何度も思ったのだが、2人が出てきた途端、事件の真相が気になり本が置けなくなってしまう。
この2人が本書にいい味を出している。

ただ不満がある。
それは、弓之助とおでこの年齢にしては、仕草や反応が幼い。
7歳から8歳のような幼さを感じる。
もっと幼く感じる。
年齢を下げて読み進むと自然と物語に入って行ける。

「筒井平四郎」の設定も不満だ。
本来は剣術・体術、探索・癇にたけていて能ある鷹は爪を隠すではないが、普段は昼行燈(ぼんくら)でいざとなると本来の姿を出して活躍をする。
侍ものの時代小説なのだから剣戟シ−ン(下手人を殺さず生かす)等で事件を解決する主人公が良かった。
まぁ〜期待外れ。

比べては良くないのだが藤沢周平氏の著書が好きな方は、物足りなさを感じ肩透かしにあった印象をもつだろう。

文句なく引き込まれるお話

最初は短編集のような構成でいながら、段々と謎が謎を読んできます。
途中江戸時代にいるのを忘れるほど、どっぷりワールドに浸れます。

主人公はいい加減さも持つけど、人として大事な部分はきちんと持っていて、
その人から見る様々な登場人物が、よくも悪くも巧みに描かれています。
私は特殊技能を持つ二人の子供が気に入りました。

宮部さんの本を読んでいると、はっとする程印象的な言葉に必ずぶち当たります。
えぐい程きめ細かい心理考察と、でも、最後に人間への温かさを忘れない眼差しが、
著者の本を読みたくなる所以ですね。

他の時代物ともリンクする人物の登場にニヤリとしました。
お勧めです!

上手いです

江戸・深川の鉄瓶長屋。
なんの変哲もないこの長屋で八百屋の太助が殺されたことがそもそもの発端となり、店子に信頼されていた差配人が姿を消した。
新しく来た差配人は非常識に若く、奮闘するも少しずつ店子が減っていく…
この裏には何があるのか。ぼんくら同心、平四郎が動き出す。

前半、人情主題の短編集かな、と思っており、それもなかなか楽しんでいたのですが、後半に入って一気に趣が変わりました。
前半で解決したと思わせておいた小さな事件が、実はつながっている…というやり方は面白かったです。
登場人物一人一人も、いい味が出ていました。
後半もこのまま楽しく読めればいいな、と思います。

佳作です

「あかんべえ」等の心霊ものではありません。
長屋を舞台にした連作で、
やがて大きな謎が解決して行く、
時代推理ものです。
人間関係の描写は相変わらずの宮部タッチ。
ただストーリーはシンプルというか、
地味ですね。それが本作の持ち味と言えます。
(それがつまらなくはないです。念のため)

宮部さんの著作では、大作ではなく佳作でしょう。
最終章に宮部作には珍しい、
残酷さ、冷たさを感じさせる部分があり、
そこが一番面白かったです。