- 書名: 妖説太閤記〈下〉 (講談社文庫)
- 作者: 山田風太郎
- 出版社: 講談社
- 出版日: 2003-11-14
- 定価: ¥ 770
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レビュー
自分にはね返ってくる「日本」への憤り
ばれないように働かせていた「機略」は、
権力の頂点に到達した後には必要なくなり、
あからさまな「暴虐」へと変化していく。
行間から伝わってくる作者の憤りはラストに向かうとともにエスカレート。
作者の憤りは秀吉に対して向かっているというよりは、
こんな奴の暴虐を、誰も止められないということ、
秀吉の死を待つことでしか世の中を変化させられない「日本」に
対して向けられている。
「日本はこの痩せこけた老猿をいかんともすることができなかった」
昭和時代の戦争における「日本」の姿がダブらせて語られる。
「ああ、戦争は終わった・・・」とほっとする気持ちの奥底に
実はいずれ、そういう時代をもたらした「英雄」の再来を
待ち望んでしまう日本、あるいは自分の心理を家康は発見する。
笑いながら死んで行った秀吉とは対称的に家康の顔には
笑いは訪れなかったのだ!
橋本治の巻末エッセイは素晴らしいです。
秀吉ってこんなんだったの?
戦国の三英雄のうち私は信長が一番好きなんだけど、秀吉については農民から這い上がった苦労人というイメージしか持っていませんでした。しっかし、悪いなあ秀吉(笑)。山風先生の筆が冴え渡る!自分ではあまり手を汚すことなく信長のついた餅を食って天下人になったとは。しかもその目的は「女」って・・・でもそんな彼があまり憎まれずに、同情や好意(男子限定)すら買えたのは「チビで猿顔」なせいで「女にモテない」からだとは。最終的に天下は 家康のものとなるわけですが信長、秀吉に苦しめられてこその価値ある勝利であり、道半ばで命を絶たれた信長と、天下を取ったのち腐っていく秀吉のどちらが不幸かと言えばなんとも言えない。
真実の秀吉の姿がここに活写される!
草履取りから天下人を極めた秀吉は、ややもすると幸運な出世物語と見られがちです。
しかし実像はここに書かれた通り、異様な出世欲の塊であり、その源泉はお市の方とその忘れ形見茶々への妄執ということが良く判る。
また朝鮮出兵や、一度は関白を譲った秀次一族の惨殺事件も丁寧に、こと細かく活写されています。
天下を取るまでは、戦(いくさ)を好まず、できるだけ戦わずして和睦する、温情味のある秀吉が、一旦天下を握るや、かくも残忍な性格になろうとは、人間は怖いものである。
ドラマにおける出世物語の裏に隠された、本当の秀吉を知るのに貴重な一冊です。
もちろん、歴史書・小説として読んでも非常に面白い、大長編ですが一気に読める傑作です。
愛されない男の妄執
主君、織田信長の仇を討った秀吉は、ついに諸大名を従えて天下に号令をかけるまでになった―下巻では、天下を取った秀吉の、愛されない男の妄執を描きます。
自らが生涯の目標としたお市の方は、秀吉を拒絶し柴田勝家と北の庄で死ぬことを選びます。しかし秀吉は彼女の忘れ形見ちゃちゃ姫を手に入れ、ついに自分の終生の願望を達成しました。
しかし、天下人となってもなお、女性は秀吉を拒み続け、かえって秀吉が破滅させた男達へその愛情を注ぐのでした。自分の甥関白秀次を秀吉が粛清させたとき、秀次の愛妾を秀吉が殺させたという有名な史実がありますが、山田氏はこれを「女にもてる男」豊臣秀次の愛妾達が、秀吉を拒んで秀次に殉じる場面であるとして描いています。絶対の権力を持ちながら、女性の愛を得る事ができない現実は、秀吉の心をますます歪ませていきました。
そして彼の歪んだ精神は、全ての人々に対する徹底的な不信感と敵意を生み、ついには「てきとてきとをともぐいさせる」ため、誰も望まなかった朝鮮出兵が始まるのです。誰も秀吉を止めることができないまま、彼の妄執は全てを巻き込んでエスカレートしていくのでした。
自らの妄執に振り回され続けた哀れな権力者に、救済はあるのでしょうか?
山風は秀吉を許せない。
山田風太郎は本当に秀吉が嫌いだ。どの作品に出てくる秀吉も好色で残忍な人物として描かれている。いや、他にも松永弾正などもそうなのだが……秀吉に対しては許し難い怒りが込められている。それは姦雄のくせに太閤さんなどと敬愛されていることへだろうか? むしろ私は秀吉の朝鮮侵略を徹底して憎んでいるように思える。山田風太郎の同世代の友人たちは、太平洋戦争で死んでいった。
そして風太郎はこの作品中でも秀吉朝鮮出兵と太平洋戦争を重ねて描いている。そうした描写を通して見えてくるのは、山風の戦争への怒りである。太平洋戦争の責任者を批判するように、山風は秀吉を責め立てる。これは『太閤記』でありながら『戦中派不戦日記』の続きでもあるのだ。そしてこの怒りは、一見荒唐無稽だが無名戦士の墓標が立ち並ぶ忍法帖、明治政府の礎の下に敗者の屍が並ぶ明治ものにも通底しているテーマなのだ。山風のいう「妖説」の妖は「妖怪」の妖、かもしれない。
また、殺された妻妾すべての辞世が並ぶ秀次妻妾虐殺事件の描写は圧巻の一言に尽きる。
