妖説太閤記〈上〉 (講談社文庫)

レビュー

これこそ真の太閤記なんじゃないの?

歴史小説が好きな方は是非読んでください。
真実はどうなのか今となってはわかりようがないが、かなりリアリティがある。
いや、たぶん本当は違うんだろうと個人的には思うが、山田風太郎の才能なんでしょう。とにかくこれこそ真実なのだと感じさせる。
ここで描かれる秀吉は人として本当に醜い、最低の人間なのだが、なぜか憎めない・・・
ここまでできる人でもないと天下統一はできないかったんだろうと思う。
他人を裏切り、利用できるだけ利用しあとは捨てる。そんな繰り返し・・・
しかしよく考えると現代の社会でも同様のことがいっぱいあるんじゃないのか?
いろいろ考えさせられました。とにかく読み出すととまりません。

美化された嘘っぱちの英雄伝を破壊する!

「太閤記」が何度もテレビや映画で題材として取り上げられることからも

日本人は秀吉が大好きだということがわかる。

しかし、それは「美化された、嘘っぱちの英雄伝」(下巻より)である。

血を流しながら戦っている男たちを、一歩高いところから眺め、

謀略を用いて駒のように扱いながらシナリオを描いて行く秀吉。

「ずるい」「いやなやつ」という評価があってもいいようなものだが

日本では秀吉は人気の高い「英雄」なのだ。

皆が大好きな秀吉は、実はこんな奴だった、という話にとどまらず

こんな秀吉を、「英雄」と思い、大好きになってしまう日本人が

持っている民族的なDNAに対する絶望感が伝わってきます。

下巻 橋本治の巻末エッセイもスゴイです!







真実は闇の彼方

 時の流れというものは、人々の記憶とともに、その時代の真実でさえ闇の彼方に押しやっていくものらしい。考えてみればたかだか60年前の太平洋戦争についてでさえ、未だその真偽をめぐって喧々諤々の大論争をいたるところで巻き起こしている(南京大虐殺しかり、従軍慰安婦問題しかり)。いわんや今を去ること400年以上昔の出来事である。その時代の支配者達の都合の良いように歴史は書き換えられ、真実は闇の彼方へと押しやられて行ったに違いない。ならば既存の概念にとらわれることなく、ある大胆な仮説をたて、鋭い推理力、想像力で闇にうずもれた真実に肉薄していく。これこそ歴史小説の醍醐味ではないだろうか。

 確かにこの小説の主人公秀吉の出世譚はあまりにもうまく行き過ぎている感は否めない。しかしながら、時は乱世、血を分けた親兄弟でさえ相争う、己の実力だけがものを言う、下克上の世の中である。彼の出自である貧しい百姓のまま生涯を終えるか、乞食同然で全国を行商しながら這い回り野垂れ死ぬか、あるいは天下人となるか・・・・。
 私なら例え万に一つしか可能性が無くても、己の脳漿と持てる力の全てを振り絞り、天下人への道に賭けてみたい。そんな気宇壮大な浪漫を読むものに抱かせる、物凄いパワーと、致死量をはるかに超える毒気を含んだ、恐るべき作品です。

隠れた名作!本当の秀吉を活写する最高傑作

山田風太郎といえば忍者物・妖術が有名で、まさか史実に出来る限り忠実なこういう「太閤記」を書いていたとは知りませんでした。
私は信長・秀吉・家康が好きで、関連するだいたいの作品は読んでいますがこの本をひょんなことから知り、読んでみてびっくりです。
今まで色々理解できなかったことが、明確に記述されています。
もちろん過去のことなので「なにが真実か」は永久にわからないわけですが、著者は歴史の原本を丁寧に読み解いて、この本を仕上げています。

秀吉の強烈な上昇志向、また天下人になるまでの様々な智謀策略が余すところなく活写されています。

あと、これは下巻になりますが、秀吉晩年の悪行も詳細に省略されることなく記述されています。単なる秀吉英雄伝の物語には、わざとそのあたりは省かれているのですが、そういう意味でも本書は一読の価値があります。

新たな秀吉像

この本を読むまでは秀吉といえば下克上であり、立身出世の鑑として貧しい出
自から己の才覚だけで天下をとった男というイメージがあった。
しかし、しかしである。この風太郎太閤記の醜怪で異様な秀吉の姿をみよ。
秀吉の原動力は『女』なのだ。ただ『女』を求めるためだけに秀吉は天下をとった。
真実がどうだったのかというのは、この際関係ない。風太郎の描く秀吉は実に真にせまって読み手に伝わってくる。実際こうだったのだと信じてしまうくらいに、その人物像は生きている。
史実の裏をとらえる風太郎歴史眼はまさに独壇場で、今なお謎とされている秀吉や信長の言動が鮮やかに解明される過程はまるでミステリそのものである。
本能寺の変の真相が本書に描かれるとおりだったかどうかは誰にもわからない。しかし、風太郎の手にかかれば、それは異様な光芒をはなってくる。
まさに、それが真実なのだ。その圧倒的な世界観は、読む者を狂わせる。いかにそれが異形であっても、デフォルメされてても、そこにいる秀吉が真実なのだ。秀吉は冷徹で女に妄執を抱く醜怪な謀略家である。事実ここまでしなければ、秀吉にはなれないのだと思う。上下二巻圧倒的なリーダビリティを備えた本書は、風太郎ならではの持ち味を活かした傑作。
その小説作法のうまさに酔い痴れていただきたい。