- 書名: 花と龍〈下〉 (大衆文学館)
- 作者: 火野葦平
- 出版社: 講談社
- 出版日: 1996-01
- 定価: ¥ 877
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レビュー
朝日新聞が守れなかった火野葦平。
著者の火野葦平の父、玉井金五郎は若松港で沖仲仕の組を営んでいる。その若松港で実際に起きた沖仲氏のストライキは火野葦平が主導したものだが、全て、沖仲氏の生活保護のためだった。玉井組の若親分として采配を振っていたときに起きたストライキだが、思想的に厳しい弾圧がなされる時代にしては珍しいことと思う。小林多喜二の『蟹工船』も労働運動の小説として特筆に値するが、資本家対労働者という図式からみると、この『花と龍』も単なるヤクザの対決ではなく、貴重な実録小説ではなかろうかと思う。現代、働く人々が沖仲仕からサラリーマンに名称は変わっても、待遇改善を求めるには義理と人情の確固たる団結が必要と思えてならない。エネルギー転換によって若松港にかつての勢いは無いが、日本の歴史の一端を知るには格好の小説と思う。
火野葦平は軍隊に入営するとき、マルクス資本論を持って入隊したことで有名である。
敗戦後、文壇戦争犯罪人第一号と糾弾されたが、彼の作品には反戦平和の言葉しか出ていない。戦中は火野の連載小説で暴利を貪った朝日新聞が彼を守らなかったのが不思議でしかたない。
ロマンの一級品
上下巻を読了した。わくわくするような面白さで、一ページたりとも退屈させられることがなかった。
私も炭鉱町で育ったので、特に石炭に関わる情景には懐かしい思いがこみ上げて来た。
戦後ではあるが、私たちの町にも似たような働く男たちがいて、そしておそらく、規模は小さいながらも、似たような「喧嘩」もあっただろう。
それにしても、当時の男たち、女たちは、なんと生き生きと時代と立ち向かっていたことか。
すべてを時間が流し去って、今は私の故郷にその面影は残っていない。それは作品の舞台である若松でもそうかもしれない。
この作品は、かつて争いながらも真っ黒になって働いた男たちの記念碑でもある。
作者は読者を愉しませる精神に富んでいた。そして、その才能も十分に持っていたのだ。一級品のロマンを堪能した。
