- 書名: 元職員
- 作者: 吉田修一
- 出版社: 講談社
- 出版日: 2008-11-05
- 定価: ¥ 1,365
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レビュー
悪くはなかったが
バンコクのギトギトしたエネルギッシュな暑さ、そこに住む人々の暑さ、不正をした人、する人の
乾いた心理。よく描写されていると思いますが、吉田修一氏だけに、もう一捻りあったら最高でした。
それなりに引き込まれましたし、小説のスタイルとしてはありかなと思います。
ある公金横領男の一週間のバンコク旅行のエピソードを綴ったお話
「講談社創業100周年記念出版」の<書き下ろし100冊>シリーズの第1弾として発表された作品。
飛行機はファーストクラス、ホテルまではタクシーでなくBMWのリムジンサービス、宿泊は五つ星ホテルのレジデンススイートという豪華なバンコク旅行に来た男片桐。本の帯に「吉田修一が到達した最高の『犯罪文学』」とあるので、期待して読み進んでみたが、片桐はある公社の会計課で公金を横領していることが次第にわかってくる。彼は有給を使って、ドタキャンした妻を置いて、ひとりで最後の豪遊をするつもりらしい。
物語は、現地で出会った武志という若い男にミントと名乗る娼婦を紹介され、彼女と過ごすさまざまなエピソードに終始する。この南国の大都会でいろんな体験をして、最後に帰国する時、なぜか開き直って大笑いする場面で終わっている。
片桐の言動は、なかなか良く書けているので、根っからの小心者らしい彼の心象風景を綴った一種の心理小説といえるだろうが、それ以外の広がりというか奥の深さというものはあまり感じられなかったし、『悪人』を読んだ時のように魂が揺さぶられるような感動をおぼえることもなかった。
本書は、「最高の『犯罪文学』」というには及ばない、「吉田修一」というブランドで読ませる、ある公金横領男の一週間のバンコク旅行のエピソードを綴ったお話である。
みんな、ごまかして生きている
「静かな爆弾」でも感じたけれど、実際にあった事件を下敷きにしてるような?
アニータ事件を思い出したのは私だけじゃないはず。
はじめはたったの514円。バレないのが不運だったというか、その金額はやがてとんでもない金額に・・・。
ささいなことから人間はこんなに落ちてしまうものなのだろうか。人間の弱さを見せつけられます。
主人公も武志もミントもごまかして生きている。彼らがときおり見せる怒りはきっと自分自身に対するものでもあるのだろう。
最後の主人公のキレっぷりにはポカーン。
結局のところ、この人はどうしたいんだろう。この旅行で何を得たんだろう。
「だから、ナニ?」・・・みんな、ごまかしながらバンコクでかりそめの時間を過ごしているだけ、それだけの作品です。
なんと1時間で読めてしまった
テーマ自体は、薄っぺらくないと思うのだが、読むのにかかった時間≧考えさせられた時間となると、それが一時間…というのは、どうなんだろう(笑)? 表現、物語の展開、登場人物のセリフ、何一つ引っ掛かるものがなかったと言える。
読み手に「自分ならどうだろう?」
「もしかしたら自分も…」と迫ってくる迫力が無さすぎた。
内容と、読ませるための技術、読み手に自分のこととして考えさせる工夫、3拍子揃わないと、いい作品にはならないようだ。
心象風景を描くことの難しさ
書き下ろしの中編。あまり時間をかけて推敲したとは思えない。アイディアはいい。時に光り輝く表現やシーンがあるので、全面的にダメだとは言いたくない。でも、吉田修一の本としては、ガッカリした。
自分を偽るステージとしてのタイ王国/バンコクというステージはすばらしい発想だと思う。しかし、都合の良い日本人青年を登場させて、お約束の性サービスやエスコート、場所の説明などを盛り込むと反比例して小説としての内容が薄くなる。
この本は、石田衣良が吉田修一と偽って書かれた作品なのであろうか。それとも、吉田修一が石田衣良になりたかったのだろうか。
日本人が日本人の中にある「異国」を描くのにバンコクが必要だったのだろうか。
「ブランド物の」といった表現でディテールを一切排除する一方、不快に感じる日本人観光客や駐在員のことは冗舌に語ります。【海外ロケ】はそれなりに効果ありますが、登場人物のスケールが息苦しくなるほど小さく、評価が別れるところだと思います。
