- 書名: 晩年の子供 (講談社文庫)
- 作者: 山田詠美
- 出版社: 講談社
- 出版日: 1994-12-07
- 定価: ¥ 470
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レビュー
女の子、だね!
一つ一つはたわいない子供子供した事件、取るに足りない日常的些事を、山田文学は実に丁寧に繊細にいとおしみながら語り、描きます。女の子、というものを知るには格好の小説だし、非情に文学的、ですね。男には真似できないし近寄れない、そういう世界です。重松清『小学5年生』と近い時期に読んだせいか、好対照(双璧)という感じがします。
いとおしいノスタルジー
十代半ばに読んだ時はいまひとつピンとこなかったのだが、今読むと、なんと一編一編がリリカルでいとおしい作品であることだろう、と思う。
ピンとはこなかったものの、あの頃一度読んで、強烈に印象に残っている一編が『桔梗』である。
幼い少女が豊かな自然に囲まれながら覗き見た、男と女の危うく脆い有様。恐怖を孕んだ、死という事象。桔梗の色である、どっちつかずで中間的な紫という色、それゆえの妖艶さ。これらを見、感じ、体験した少女の受け止めた、「世界」という漠然としたものの、なんという広大さよ。それを感じることによってもたらされる感傷は、幸せというものに他ならない。
自然に触れながらあらゆる物事を知り、何かを感じ取っていくことの悦びは、人間として生まれた者にのみ与えられる恩恵だろう。『桔梗』のみならず、どの一編にも、著者はその恩恵にいとおしさと感謝の念を抱いているのが表れている。
本書の裏表紙には、「永遠の少女詠美」とある。とかくアダルトな作風が有名な山田氏だが、本書に込められているような愛らしさを密かに胸の内に保ち続けていられる彼女に、私は憧れる。
せつないノスタルジー
なんでしょうね…久しぶりに読み返しました。中学、高校、大学と、そして今も心のバイブル山田詠美さんの著書。
静かに、音楽がやさしく室内に鳴り響くように、そして時に鋭く、痛いくらいに率直に私に語りかける物語。山田さんが小さい頃から見てきた物事を、きれいにきれいに、細かく織り込んでいます。
筆者の物事を見る目はふつうの人より温度が低いような気がします。それは単に醒めている、という意味ではなくて、とにかく冷徹に観察者たるのです。さまざまな種類の人間を観察し、分類し、好きなものとそうではないものに分ける、時には自分の感情さえも地図のように広げて、分析してみる。「あ、ここにひどい自意識があるぞ」というように。私たちは普段は自分のそれに気づきません。それに目を向けようとはしません。けれど、山田さんの現実の観察記録断片のようなこの小説に、きっと、気づかされるのだと思うんです。人や自分の汚さや愚かさ、そしてその美しさに。
私はこの小説がすごく好きです。特に作者の描く、「こまっしゃくれた」女の子の、幼い自意識の様子に、非常に共感します。そしてそれと対照的に置かれた、自分に忠実で、自意識に振り回されない人たち(例えば「海の方の子」の哲夫くん、「花火」の姉など)が、羨ましくて、とても素敵で、できた人たちだなぁ、と思うのです。
だれもの心の地図に、1つはきっと呼応する素敵な短編集。すごくおすすめです。
